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観客の顔が「標的」になったフジロック2026でMassive Attackは何を問うたか

監視技術、政治映像、感情を誘導する情報環境から、Massive Attackの公演が問う「何を根拠に信じるか」を読み解く。

終盤、スクリーンに**「自分の感情や思考は、本当に自分のものか」**と問う文が現れた。この一文から公演を逆にたどると、別々に見えた映像が一つにつながる。

全編の公式映像は公開されておらず、配信で確認できたのも一部に限られる。本稿では、確認できた公演記録を起点に、彼らの過去の活動と政治アートの文脈を整理する。

2026年7月26日のフジロックで、英国ブリストル出身のバンドMassive Attackは、観客の顔をカメラで拾い、赤い照準枠を重ねた。画面には、米国のソフトウェア企業Palantirが政府・軍向けに提供する製品名「GOTHAM」。ほかにも、Elon Muskが設立した脳インターフェース企業Neuralinkの実験動物、コンゴの鉱山、ガザやイランの戦争、トランプ、偽ニュース、怒りを誘って反応を稼ぐ「レイジベイト」、1980年に韓国で民主化運動が軍に弾圧された光州事件、ソテジワアイドゥルの検閲への抵抗曲「時代遺憾」が映った。

これらを結ぶのは、単純な反権力ではない。パランティアは制度の判断、ニューラリンクは身体と思考、鉱山はデジタル空間を支える物質、レイジベイトは感情、検閲は発言を外側から方向づける。画面が繰り返したのは、自律していると思う人間の判断が、どの基盤に支えられ、誰に編集されているのかという問いだった。

2024年8月、Rock en Seineで演奏するMassive Attack。フジロック2026当日の写真ではない。 Massive Attack at Rock en Seine, 2024. 撮影: ManoSolo13241324 / 出典: Wikimedia Commons / ライセンス: CC0 1.0 / 変更なし。

パランティアは、政府、軍、企業が別々に持つ記録を統合し、分析結果を現場の判断へ接続するソフトウェアを提供する。Gothamは軍や捜査機関向け、Foundryは企業や公共サービス向けの製品である。米軍のAI計画Mavenではセンサー情報の統合と標的特定を支援し、英国の公的医療制度を担うNational Health Serviceのイングランド部門もFoundryを含むデータ基盤を契約している。個別の計算手法より、複数の情報源と組織の行動を結ぶところに同社の特徴がある。

パランティアの共同創業者で実業家のPeter Thielは、トランプと米副大統領JD Vanceを支援してきた。Massive Attackの結成メンバーでボーカルのRobert Del Najaは、今回の画面をGothamによる監視と、情報から措置を決めるまでの「decision chain(決定の連鎖)」を想像したものだと説明している。医療記録、警察情報、位置情報、衛星画像が同じ操作系へ集まり、捜査、拘束、攻撃へ移る。その距離が短くなることを、観客の顔が「対象」に変わる数秒で表現した。

舞台上の人物情報は風刺用の架空データだった。バンドは同型の過去演出について、観客の顔を保存する実運用の監視システムではないと説明している。パランティアも顧客データを所有・販売せず、利用目的と権限は顧客側が管理すると主張する。英国の公的医療制度側も、データ管理の権限は自らが持つとしている。

データの所有者が顧客側にいても、何を関連情報として表示し、誰を調査対象にし、次に選べる行動をどう並べるかはソフトウェアの設計に左右される。Massive Attackの映像は、軍事、警察、医療の判断を支える基盤が一企業へ集まることを批判の対象にしていた。

Massive Attackの前身The Wild Bunchは、1980年代のブリストルで移動式の音響設備を持ち込み、パーティーを開いていた音楽集団だった。DJ、進行やラップを担うMC、ダンサー、グラフィティ・ライターが固定された役割を持たず、既存のレコードを選び、つなぎ、場を作った。Del Najaは「3D」の名で壁に絵を描き、英国のアナーコ・パンクバンドCrassがレコードへ同封したステンシルにも影響を受けた。

彼らはサンプリングで異なる音源を並べ、グラフィティで既存の都市空間へ割り込み、ライブではニュース、統計、広告、歴史映像を衝突させてきた。断片の隣接と反復から意味を立ち上げる方法が、音楽から政治映像まで続いている。

2003年に映像・照明を手がける英国のアート集団United Visual Artistsと始めた公演では、巨大な発光画面に開催地のニュースや統計を現地語で流した。Del Najaはこれを「壁に声明を描くことから、光で声明を表示することへの進化」と語っている。数字を使った発光作品で知られる日本の現代美術家・宮島達男、パンクのステンシル、ヒップホップのサンプリング、英国の映像作家Adam Curtisによる記録映像のコラージュが、今回の舞台につながっている。

2003年、Del NajaはBlurやGorillazで知られるDamon Albarnと、イラク戦争に反対する広告を英国の音楽誌『New Musical Express』へ出した。2008年には、グアンタナモ米軍基地の収容者らを法的に支援する人権団体Reprieveと、ロンドンの芸術祭Meltdownを企画した。2011年には、経済格差に抗議した国際運動Occupyを支援した。後年、Occupyが指導者不在のまま焦点を失い、保守派や銀行に利用されたとも批判している。

2020年、Massive Attackは3曲からなる映像作品『Eutopia』を発表した。そこでは、パリ協定の策定に関わった気候変動の専門家Christiana Figueres、ベーシックインカムを研究するGuy Standing、富裕税を提唱する経済学者Gabriel Zucmanの発言を、音楽と映像に組み込んだ。各分野の専門家が、気候政策や所得再分配をどう変えるかを提案する作品だった。

翌2021年には、英国のTyndall気候変動研究センターへ、ライブ産業の二酸化炭素排出を減らす方法の調査を委託した。研究チームは、観客と機材の移動、会場の電力、食事などを排出源として調べ、業界が採用できる数値目標と対策をまとめた。Massive Attackはその提案を、2024年にブリストルで開いた公演「ACT 1.5」で実行した。会場を蓄電池で動かし、食事を植物性に限定するなどの対策により、電力由来の排出量は同規模の野外公演より98%少なかった。

音楽の流通にも抗議を反映させている。2025年には、Spotify創業者Daniel Ekが軍事AI企業Helsingへ投資したことを理由に、Spotifyで配信していた一部の楽曲を引き上げた。2026年には、英国政府が親パレスチナ直接行動団体Palestine Actionを禁止したことに抗議する集会へDel Najaが参加し、同団体への支持を示した疑いで逮捕された。

この履歴を見ると、彼らの活動は権威者を名指しする映像に限られない。法律家や研究者を招き、広告費を払い、自分たちの興行方法と流通契約も変えている。政治的主張のすべてが正しいことを保証する経歴ではないが、「安全な場所から批判するだけ」という見方には収まらない。

Banksy説が示すブリストルの近さ

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Del Najaは、正体を公表せず活動する英国のストリートアーティストBanksy本人ではないかと長く噂されてきた。二人が同じ都市のグラフィティ文化に属し、政治的主題も近いことが背景にある。2016年にはBanksy作品が現れた都市とMassive Attackのツアー日程の重なりが指摘された。翌年、音楽プロデューサーのGoldieがBanksyを「Rob」と呼び、Banksy自身も過去に「Massive Attackの3Dをまねた」と書いている。

2026年、国際通信社Reutersは、米国の裁判・警察記録、関係者証言、渡航記録から、BanksyをRobin Gunninghamと特定した。Gunninghamは後にDavid Jonesへ改名し、2022年にDel Najaと同じ日程でウクライナへ入り、二人で壁画を制作したと報じられた。Banksy側の弁護士は調査内容の一部を否定している。

現在の証拠では、Del NajaはBanksy本人より、Banksyに影響を与えた友人であり共同制作者と見るほうが整合する。この噂が長く残ったこと自体、音楽、ストリートアート、反戦運動が分かれていなかったブリストルの人的な近さを示している。

Massive Attackは陰謀論を好むバンドだ、という見方も耳にする。巨大企業、軍、政府、メディアを一つの画面で結ぶ演出が、世界を少数の悪人が裏で操る物語に見えるためだろう。陰謀論は一般に、秘密集団を出来事の主要因とし、反証や証拠の欠如まで隠蔽の証拠へ変える。調査した範囲では、Massive Attackを「陰謀論マニア」とする人物評を裏づける信頼できる資料は確認できなかった。

今回の演出が陰謀論に当たるかは、題材の不穏さより、映像が結んだ関係をどこまで資料で確かめられるかで判断できる。

Palantirが軍、警察、医療機関へソフトウェアを提供していること、ThielがトランプやVanceを支援してきたことは、契約資料や報道で確認できる。ここには秘密組織の存在を仮定する必要がない。Del Najaが問題にした「社会基盤の取り込み」は、それらの契約が広がる方向をどう評価するかという政治的な解釈である。

コンゴの鉱物がスマートフォンや電池などの製造を支えていることも確認できる。ただし、採掘現場の労働問題、各企業の調達、消費者の利用を一続きの映像にすると、どの企業がどこまで責任を負うのかは見えにくくなる。

光州事件、韓国の軍事政権による検閲、ソテジワアイドゥルの「時代遺憾」には、権力と表現をめぐる歴史的な連続性がある。現在のK-POP産業は、海外音楽の受容、芸能事務所の育成方式、政府の文化政策、1990年代末の経済再編からも形成された。公演が示したのはK-POPの起源全体ではなく、その歴史から「抵抗する音楽」という線を選び出したものだった。

問題は、虚偽の情報を大量に並べたことより、映像の順番が因果関係まで証明したように感じられる点にある。Del Najaも2016年、**ライブが「もう一つのニュースフィード」**になり、同意する観客への説教へ変わる危険を語っていた。情報の出典を追えるか、隣り合う映像の間にどんな説明が省かれたかを見ると、記録に基づく権力批判と、事実を一つの物語へ寄せる編集を分けて読める。

写真、報道、広告の断片を組み替えて政治的な意味を作る方法には、20世紀からの系譜がある。1920年代から30年代にJohn Heartfieldは、新聞や雑誌の写真を切り合わせ、ナチスの宣伝や資本との関係を批判するフォトモンタージュを制作した。1970年代末以降、Jenny Holzerは広告や警告表示に使われる電光掲示板へ短い文章を流し、Barbara Krugerは大衆雑誌の写真と「あなた」「私たち」を主語にした強い言葉を組み合わせた。

Massive Attackの巨大文字、ニュース映像、固有名詞の連続は、この流れに位置づけられる。広告やニュースが人の注意を奪う形式を、そのまま権力批判へ転用する。彼らは2003年から、開催地のニュースと現地語を公演へ取り込み、同じ形式をインターネットと監視技術の変化に合わせて更新してきた。

現在の政治アートには、別の方向もある。ロンドンの調査集団Forensic Architectureは、映像、衛星画像、建築模型、位置情報を照合し、国家暴力や人権侵害が起きた過程を再構成する。作品を展示するだけでなく、分析方法と証拠を裁判や報告書にも提出している。このような「調査するアート」と比べると、Massive Attackのライブは証拠の検討過程より、問題を短時間で身体へ伝えることに比重がある。

観客の顔が画面上で選ばれ、情報を付けられ、標的へ変わる場面では、情報の整理が人の扱いを変える過程が数秒に圧縮された。Neuralinkの実験映像、レイジベイト、検閲、鉱物資源、戦争の映像も、個人が見聞きする世界の背後にある仕組みを示していた。

これらに共通するのは、情報が正しいかという問題だけではない。何が見える位置に置かれ、どの関係が強調され、どんな選択肢が差し出されるかによって、物事の信じ方も形づくられる。

この公演が最後に残したのは、特定の企業や政治家への賛否より、私たちが何を根拠に世界を信じているのかという問いだった。終盤の「自分の感情や思考は、本当に自分のものか」は、何も信じるなという警告ではない。自分が信じているものが、どの情報、制度、編集を通ってきたのかを確かめ、何を信じるかをもう一度考えるよう促す言葉だったのかもしれない。

公演記録、本人発言、企業・公共機関資料、報道、研究を照合した。確認できる事実、根拠のある解釈、圧縮された物語、噂を分けて構成している。全編の公式映像は公開されていないため、当日の映像一覧には現地レポートと配信視聴記録を含む。