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大分の湯はなぜ多様なのか湧出量・温泉地・泉質を事実から読む

大分県の湧出量と源泉数を統計で確認し、別府で7種類の泉質が同居する仕組みを、深部熱水の分離と再混合から読む。

大分県は温泉の湧出量・源泉数がともに全国1位である。このノートで追うのは「日本一」という順位そのものではない。なぜ量が多いのか、そしてなぜ歩いて回れる範囲に異なる泉質が同居するのか——この二つを、公的統計と一次資料に基づいて順に整理する。

構成は次の通り。

  1. 数字で見る大分の温泉(全国ランキングと、その地理的背景)
  2. 大分の温泉地——名湯と、知る人ぞ知る湯
  3. 泉質という制度(療養泉10種類の分類と、その根拠)
  4. なぜ同じ地域で泉質が異なるのか(別府のメカニズム)

温泉の歴史・文化史については、姉妹ノート「温泉はどのように「知」の対象になったか」で扱う。

瓦屋根の家並みの奥から白い蒸気が何本も立ちのぼり、背後に山の稜線が続いている。 別府・鉄輪一帯の湯けむり。2012年に「別府の湯けむり・温泉地景観」として国の重要文化的景観に選定された。撮影: David Stanley / 出典: Wikimedia Commons / ライセンス: CC BY 2.0 / 変更なし。

環境省「令和6年度 温泉利用状況」(令和7年3月末現在)に基づく大分県の公表値は次の通りである。

本県は16市町村において温泉が湧出しており、源泉総数は5,094、湧出量は293,610リットル/分でともに全国第1位。(大分県「温泉データ」)

源泉総数(上位5)

順位都道府県源泉総数
1大分県5,094
2鹿児島県2,735
3北海道2,249
4静岡県2,185
5熊本県1,339

湧出量(上位5・リットル/分)

順位都道府県湧出量
1大分県293,610
2北海道189,888
3鹿児島県167,150
4青森県139,808
5熊本県129,598

1位と2位の差は大きい。源泉数で大分は2位鹿児島の約1.86倍、湧出量でも2位北海道の約1.55倍である。

やや古い年度になるが、全国比が明示された数字もある。令和3年度時点で、大分県の源泉数5,093は全国27,915の約18.2%、湧出量298,264L/分は全国2,518,885L/分の約11.8%を占めていた。源泉数では全国の約5分の1、湧出量では約9分の1が大分県一県に集中していることになる。参考までに、令和5年度の全国計は温泉地2,857、源泉総数27,920、高温源泉数(42℃以上)12,676である。

温泉は浴用だけの資源ではない。九重町ではフラッシュ方式(地下深部から200〜350℃の蒸気と熱水を取り出す)、別府市・由布市ではバイナリー方式(80〜150℃の中高温水で低沸点の二次媒体を蒸発させる)の地熱発電が行われている。大分県の地熱発電量は日本の発電実績の約42%にあたる約90万MWhで全国1位である(経済産業省「令和6年度電力調査統計」)。温泉と地熱発電は、同じ資源の異なる利用形態である。

1-2. 量の背景——別府-島原地溝

Section titled “1-2. 量の背景——別府-島原地溝”

温泉が湧出するには「熱源」「地下水」「断層(湯が地表に出る経路)」の三条件が必要とされる。大分県の中央部を北東から南西に走る別府-島原地溝は、地盤が沈む大地の裂け目であり、この地溝に沿って多くの火山が並んでいる。県の説明によれば、県内の温泉の大多数は火山性温泉で、これらの火山の周辺に集中している。

  • 北東部(鶴見岳・由布岳の周辺)——別府温泉、湯布院温泉、塚原温泉、湯平温泉
  • 南西部(九重火山群の周辺)——筋湯温泉、川底温泉、宝泉寺温泉、七里田温泉、長湯温泉、筌ノ口温泉、赤川温泉

温泉地の位置は、火山と断層の位置に規定されている。「大分に温泉が多い」より、「別府-島原地溝が大分県を貫いている」の方が、湧出量の説明としては正確になる。

赤褐色に濁った池から湯気が立ちのぼり、対岸の遊歩道に人が並んでいる。 血の池地獄。『豊後国風土記』が速見郡の「赤湯泉」として記録した泉に比定されている。赤色は含鉄成分の酸化による。撮影: 663highland / 出典: Wikimedia Commons / ライセンス: CC BY 2.5 / 変更なし。

2. 大分の温泉地——名湯と、知る人ぞ知る湯

Section titled “2. 大分の温泉地——名湯と、知る人ぞ知る湯”

以下に挙げる温泉地は、観光的な人気順ではなく、前節の地理的枠組みのどこに位置するかという観点で並べている。

別府温泉郷(別府市) 別府八湯——別府・浜脇・観海寺・堀田・明礬・鉄輪・柴石・亀川——の総称。市域の源泉数2,831本、湧出量101,856L/分はいずれも県内最多である。7種類の泉質が同居する理由は第4章で詳述する。鉄輪・明礬・柴石の3温泉は国民保養温泉地に指定されている(令和2年再指定)。

湯布院温泉郷(由布市) 由布院・湯平・塚原・庄内・挾間の各温泉からなり、令和元年に国民保養温泉地として再指定された。由布岳の山麓に広がる由布院盆地は、秋から冬の冷え込んだ朝に朝霧が発生することで知られる。県のデータでは由布地域の特徴として硫酸塩泉の分布が挙げられている。

朝の湖面から白い霧が立ちのぼり、対岸の色づいた木立と奥の山が水面に映っている。 由布院盆地の金鱗湖。冷え込んだ朝に湖面から霧が立ちのぼる。撮影: Tzu-hsun, Hsu / 出典: Wikimedia Commons / ライセンス: CC BY-SA 4.0 / 変更なし。

湯平温泉(由布市) 石畳の坂道に沿って共同浴場が並ぶ、鎌倉期にさかのぼるとされる湯治場。泉温60℃前後、炭酸水素塩泉やナトリウム-塩化物泉など。由布院の華やかさとは対照的に、湯治場の骨格をよく残している。

天ヶ瀬温泉(日田市) 玖珠川沿いに湧く温泉で、別府・由布院とともに豊後三大温泉に数えられる。『豊後国風土記』にも記録が残る古い温泉地で、川岸に共同露天風呂が点在する。単純温泉のほか硫黄泉も分布する。

長湯温泉(竹田市直入町) 県内でも分布の少ない二酸化炭素泉の代表地。県の広報では炭酸ガス濃度約1,200ppmで「日本一の炭酸泉といわれている」と紹介される。2015年に久住高原温泉郷・竹田荻温泉と合わせ「竹田温泉群」として国民保養温泉地に選定された。ドイツのクアオルト(療養温泉地)をモデルにした温泉療養施設が整備されている。

筋湯温泉(九重町) 標高約1,000m、桶蓋山の山麓に湧く。天徳2年(958年)の開基記録があり、温泉地として開かれたのは1658年とされる。名物は3mの高さから湯が落ちるうたせ湯で、共同浴場「うたせ大浴場」には18本が並ぶ。「筋の病に効く」ことが地名の由来とされ、別名「あんまいらずの湯」。貞享元年(1684年)に日田藩主から温泉冥加金として年銀20匁を納めるよう命じられた記録も残る。

七里田温泉「下ん湯」(竹田市) くじゅう連山の南東麓、久住高原東部の田園地帯にある共同浴場。長湯と並ぶ高濃度炭酸泉で、「ラムネの湯」の愛称を持つ。湯量は毎分約200L、加熱も希釈もしない源泉かけ流し。浴槽と源泉の距離が1m以下と近いため、入浴した瞬間から全身に気泡が付着する。換気をせずにいると酸欠を起こすほど炭酸ガス濃度が高いとされ、入浴時間の制限が設けられている。

塚原温泉「火口乃泉」(由布市) 活火山・伽藍岳(別名・硫黄山)の中腹、標高約500mに湧く。泉質名は酸性・含鉄(II、III)-アルミニウム-硫酸塩泉、pH1.4前後。施設の説明によれば鉄イオン含有量は全国1位、酸性度は全国2位、アルミニウム含有量は全国2位という組成を持つ。強酸性でありながら肌がすべすべする浴感で、糸くずのような細かい湯の花が舞う。

法華院温泉山荘(竹田市/くじゅう連山) 坊がつる湿原を望む標高約1,300mの高台に立つ、九州最高所の温泉。ラムサール条約登録湿地である坊がつるへは、長者原の登山口から雨ヶ池越を経て約2時間の徒歩でしか到達できない。浴槽には源泉かけ流しの単純温泉があふれ、窓からは大船山・平治岳が望める。5月末から6月にかけてはミヤマキリシマが山麓から咲き上がる。「アクセスの困難さ」がそのまま泉質と景観の保存条件になっている例といえる。

緑の草原が広がる湿原。木の遊歩道が右手前から奥へ伸び、正面に丸みのある山が立つ。 坊がつる湿原とくじゅう連山。標高約1,300mの法華院温泉へは徒歩でしか到達できない。撮影: Yasu / 出典: Wikimedia Commons / ライセンス: CC BY-SA 3.0 / 変更なし。

壁湯温泉・川底温泉・筌ノ口温泉(九重町) 九重”夢”温泉郷を構成する温泉群。川沿いの岩壁の窪みをそのまま浴槽にした壁湯、赤褐色の含鉄泉が湧く筌ノ口など、それぞれに性格が異なる。九重町は源泉数こそ435本と別府の6分の1以下だが、湧出量は85,736L/分と県内2位で、1本あたりの湧出量が突出して大きい(別府市の約36L/分に対し約197L/分)。これは地熱貯留層から少数の井戸で大量の熱水を得ているという、別府とは異なる資源構造を示している。

3-1. 「温泉」と「療養泉」は別の概念

Section titled “3-1. 「温泉」と「療養泉」は別の概念”

日常語の「温泉」と、法律・分析上の用語は一致しない。

  • 温泉法上の温泉——地中から湧出する温水・鉱水等で、泉源温度25℃以上、または温泉法別表に定める物質を規定量以上含むもの
  • 療養泉——環境省「鉱泉分析法指針」において、温泉のうち「特に治療の目的に供し得るもの」として定義されるもの。①泉温25℃以上、または②25℃未満でも規定の7物質のいずれかを一定量以上含むこと

泉質名がつくのは療養泉だけである。 温泉法上の温泉であっても療養泉の基準を満たさない場合、温泉分析書には泉質名の代わりに「温泉法第2条の別表に規定する○○の項により温泉に適合する」といった判定が記載される。

療養泉の分類はかつて11種類だったが、2014年7月の指針改訂で含アルミニウム泉と含銅-鉄泉が除外され(大部分は含鉄泉に吸収)、代わりに従来は塩化物泉に括られていた含よう素泉が独立して、現在の10種類になった。分類は不変の自然分類ではなく、改訂されうる制度である。

日本温泉協会が整理する基準・特徴・泉質別適応症は次の通り。

#泉質基準(温泉水1kg中)特徴泉質別適応症
1単純温泉溶存物質1,000mg未満/泉温25℃以上肌触りが柔らかく刺激が少ない。pH8.5以上はアルカリ性単純温泉浴用:自律神経不安定症、不眠症、うつ状態
2塩化物泉溶存物質1,000mg以上/陰イオン主成分が塩化物イオン日本では比較的多い。飲用すると塩辛い浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症/飲用:萎縮性胃炎、便秘
3炭酸水素塩泉溶存物質1,000mg以上/陰イオン主成分が炭酸水素イオンカルシウム型では石灰質の析出物が生じることがある浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症/飲用:胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、耐糖能異常、高尿酸血症
4硫酸塩泉溶存物質1,000mg以上/陰イオン主成分が硫酸イオン陽イオンによりナトリウム型・カルシウム型等に分かれる浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症/飲用:胆道系機能障害、高コレステロール血症、便秘
5二酸化炭素泉遊離二酸化炭素1,000mg以上全身に泡が付着。加温すると炭酸ガスが揮散する場合がある。日本では比較的少ない浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症/飲用:胃腸機能低下
6含鉄泉総鉄イオン20mg以上空気に触れると酸化が進み赤褐色になる飲用:鉄欠乏性貧血症
7酸性泉水素イオン1mg以上口にすると酸味。殺菌効果もある。欧州にはほとんど見られない浴用:アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、耐糖能異常、表皮化膿症
8含よう素泉よう化物イオン10mg以上非火山性の温泉に多い。時間がたつと黄色く変色飲用:高コレステロール血症
9硫黄泉総硫黄2mg以上硫黄型と硫化水素型。特有の臭いは硫化水素による浴用:アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症(硫化水素型は末梢循環障害が加わる)/飲用:耐糖能異常、高コレステロール血症
10放射能泉ラドン30×10⁻¹⁰キュリー以上(8.25マッヘ単位以上)いわゆるラドン泉浴用:高尿酸血症、関節リウマチ、強直性脊椎炎など

泉質名の後には、浸透圧(低張性・等張性・高張性)、液性(酸性〜アルカリ性)、温度(冷鉱泉・低温泉・温泉・高温泉)の分類が併記されるのが通例である。人間の体液の濃さは約8,800mg/kgで等張性にあたる。

昭和53年以前は、炭酸泉・重曹泉・食塩泉・正苦味泉・芒硝泉・石膏泉・緑礬泉といった「旧泉質名」が使われていた。現在の「新泉質名」は主要な化学成分を明示する方式に改められたものである。

注意——ここに挙げた「泉質別適応症」は、鉱泉分析法指針に基づいて掲示が認められている項目であり、個々人への治療効果を保証するものではない。持病がある場合、飲泉を行う場合は、施設の掲示と医師の判断を優先されたい。

大分県では療養泉10種類のうち8種類が湧出している。

  • 湧出が確認されているもの:単純温泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、二酸化炭素泉、含鉄泉、酸性泉、硫黄泉
  • 確認されていないもの:含よう素泉、放射能泉

別府市に限ると7種類(単純温泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、含鉄泉、硫黄泉、酸性泉)で、二酸化炭素泉・含よう素泉・放射能泉は確認されていない。

県のデータによれば、県全体では単純温泉が最も多く、次いで塩化物泉、炭酸水素塩泉の順。地域ごとの特徴としては、別府地域の酸性泉および硫黄泉、西部地域の硫黄泉、豊肥地域の二酸化炭素泉、由布地域の硫酸塩泉が挙げられている。

二酸化炭素泉は、大分県内では別府以外に分布する。 代表が竹田市直入町の長湯温泉であり、七里田温泉もこれに属する。別府型(高温・断層に沿う流路型・多泉質)と長湯型(低温・高濃度炭酸)という異なる温泉が、同一県内に併存している。

4. なぜ同じ地域で泉質が異なるのか

Section titled “4. なぜ同じ地域で泉質が異なるのか”

別府市には2,831本の源泉が市域内に密集し、そのなかに7種類の泉質が同居している。歩いて回れる範囲で湯の色も匂いも肌触りも変わる。

4-1. 別府のメカニズム——分離と混合の2段階

Section titled “4-1. 別府のメカニズム——分離と混合の2段階”

以下は別府温泉地球博物館(監修:由佐悠紀)が示す生成メカニズムである。

[第0段階]熱と成分の供給源

別府温泉は火山性温泉で、およそ5万年前に形成されたとみられている。熱と化学成分の素は、鶴見火山群の地下深部に存在する塩化物泉型の熱水である。温度250〜300℃、塩化物イオン濃度1,400〜1,600mg/kg。水そのものは雨水を起源とし、別府全域の地下に分布する温泉水は平均して約50年で入れ替わっている

[第1段階]流路——2本の断層

この熱水は、別府扇状地の南縁の朝見川断層北縁の鉄輪断層を流路として流れ出す。別府八湯は、この2本の流路に沿って位置している。

[第2段階]分離——沸騰による分化

熱水は流動の途中で沸騰し、蒸気が発生する。ここで熱水は二つに分かれる。

  • 蒸気は上昇し、高地部に分布する
  • 蒸気を失った熱水は地下水で希釈されながら低地部へ向かい、塩化物泉になる

蒸気に含まれる成分がそれぞれ別の泉質を生む。

  • 蒸気中の硫化水素硫酸塩泉(および硫黄泉・酸性泉)
  • 蒸気中の二酸化炭素炭酸水素塩泉

[第3段階]混合——組み合わせが多様性を生む

これら三種の温泉水と地下水が様々な割合で混合し、多種多様な泉質が形成されました。

別府の泉質の多様性は、単一の深部熱水が、沸騰による分離と、その後の再混合を経て分化した結果である。 一つの親から生まれた枝分かれ、と言い換えてもいい。

海岸付近では第4の変数が加わる。52か所の温泉井を対象とした水文化学的研究では、別府地熱域の海岸付近の温泉井で海水の混合が認められ、混合率は12%と見積もられている。同研究は泉質を5グループに分類し、その平面分布が過去の研究から推定された温泉水の流動経路とおおむね一致すること、標高によって流動系が異なることを示した。

4-2. 整理——泉質を決める4つの変数

Section titled “4-2. 整理——泉質を決める4つの変数”
変数効果
標高(高地部か低地部か)蒸気が卓越するか、熱水が卓越するか
断層からの距離供給される熱水の量と温度
地下水による希釈率溶存物質の濃度
海への近さ海水混合(沿岸部で最大12%程度)

この枠組みを実際の別府八湯に当てはめると、地理と泉質の対応が読める。

  • 明礬温泉(標高が最も高い)——酸性泉・硫黄泉。蒸気卓越域。硫化水素由来の成分が支配的
  • 鉄輪温泉(中腹、鉄輪断層沿い)——塩化物泉中心。おびただしい湯けむりは蒸気の存在を示す
  • 別府温泉・浜脇温泉(海に近い低地部)——塩化物泉。蒸気を失った熱水が地下水に希釈されて到達する

明礬に立ちのぼる硫黄の匂いと、浜脇の塩辛い湯は、同じ熱水の別の段階を見ていることになる。

このメカニズムを、江戸時代の技術がすでに実用的に利用していた。明礬温泉の湯の花製造がそれである。

明礬地区で明礬の採取が始まったのは寛文6年(1666年)、日本初とされる。幕府領と久留島藩の飛び地に分かれ、それぞれ御越明礬・久留島明礬の名で全国一の量を生産した。この技術を継承・改良したものが、現在の湯の花小屋である。

明礬温泉地区は地熱が強く、地下30cm程度に温泉脈があり、地表から勢いよく蒸気が噴出している。湯の花小屋は、この噴気を通した床の上にわらや茅で屋根を葺いた製造施設である。

生成の原理はこうだ。地中の石造溝から上昇する噴気が、小石層と青粘土層を通過する過程で冷却され凝縮水が生じる。同時に蒸気中の硫化水素や亜硫酸ガスが硫酸へと転化する。この硫酸が毛管現象で粘土内部を上昇し、粘土中の鉄・アルミニウムと化合して硫酸塩鉱物を形成する。これが地表近くで結晶として析出したものが湯の花である。結晶は1日約1mmずつ成長し、40〜60日かけて採取・精製・乾燥される。

原料の青粘土はスメクタイトという粘土鉱物からなるが、すべてのスメクタイトが原料になるわけではない。用いられてきた青粘土は鉄を含むスメクタイトが主成分で、単に鉄を含むだけでなく、その量が湯の花製造に適していることが重要だという。

わら葺き屋根には合理的な理由がある。雨で結晶が溶けるのを防ぎ、内部の温度・湿度を一定に保ち、蒸気中の水分を水滴にせず屋外へ放出させる。それでも蒸気の作用で小屋の寿命は長くて3年、そのたびに葺き替える。

「蒸気に含まれる硫化水素が硫酸塩を生む」という4-1で見たメカニズムを、小屋というかたちで人工的に再現・固定したのが湯の花小屋である。 この技術は2006年(平成18年)3月15日、「別府明礬温泉の湯の花製造技術」として国の重要無形民俗文化財に指定され、明礬温泉湯の花製造技術保存会が保護団体に認定された。

湯の花を溶かした湯は弱酸性を示し、温泉でいえば酸性泉に相当する。明礬の酸性泉を、家庭の浴槽で再現する装置でもあったわけである。

わらで葺いた低い切妻屋根の小屋が斜面に並び、地面には黄白色の結晶と石が広がっている。 明礬温泉の湯の花小屋。噴気と青粘土から結晶を育てる製造技術は、2006年に国の重要無形民俗文化財に指定された。撮影: 松岡明芳 / 出典: Wikimedia Commons / ライセンス: CC BY-SA 4.0 / 変更なし。

1. なぜ大分は湧出量が多いのか。 別府-島原地溝という大地の裂け目に沿って火山が並び、「熱源・地下水・断層」の三条件が広範囲で揃っている。結果、16市町村で温泉が湧出し、源泉総数5,094、湧出量293,610L/分でともに全国1位。ただし中身は一様ではない。別府型(多数の源泉が市街地に高密度)と九重型(少数の源泉が大量湧出)という異質な資源が合算された数字である。

2. なぜ同じ地域で泉質が異なるのか。 別府の場合、深部の単一の塩化物泉型熱水(250〜300℃)が、①断層に沿って流動する途中で沸騰し、蒸気と熱水に分離、②蒸気由来の成分(硫化水素→硫酸塩泉、二酸化炭素→炭酸水素塩泉)と塩化物泉と地下水が様々な割合で再混合することによる。標高・断層からの距離・希釈率・海水混合率という4変数の組み合わせが、7種類の泉質を生んでいる。多様性は起源の多様性ではなく、一つの熱水の分化の結果である。

泉質という言葉自体も、2014年の指針改訂で11種類から10種類へ組み替えられた。湯そのものは分化を続け、それを記述する枠組みもまた書き換えられていく。

  • 海水混合率12%は52か所の温泉井を対象にした研究の推定値で、井戸ごとのばらつきまでは確認していない。
  • 九重町で源泉1本あたりの湧出量が別府より大きい理由を、地熱貯留層の深さと井戸の掘削方式の違いとして説明できるか。
  • 二酸化炭素泉が長湯・七里田に分布し、別府には確認されていない条件を、4-1と同じ枠組みで説明できるかは未確認である。

統計

県内の温泉地

泉質・生成メカニズム

湯の花

統計値は特記のない限り環境省「令和6年度 温泉利用状況」(令和7年3月末現在)に基づく。適応症に関する記述は鉱泉分析法指針に基づく掲示項目であり、個別の治療効果を保証するものではない。数値は公表資料の転記であり、原資料との突き合わせは一度しか行っていない。